岡本太郎(1911‐1996)は、漫画家の岡本一平,歌人で小説家の岡本かの子の長男として神奈川県高津村(現在の川崎市)で生まれ,東京美術学校に進みましたが,1929年に中退して18歳でパリに渡りました。岡本が若き日に,幾何学的抽象を提唱するグループ「アブストラクシヨン・クレアシヨン」に参加したり,シュルレアリスムに傾倒した体験は、その後の風刺と批判精神に根ざした前衛的な芸術世界を形成していく上で、大きな影響を与えました。また,パリ大学で学んだ民族学や文化人類学も、その眼差しや志向と深い関わりを見出すことができます。
第二次世界大戦によって帰国した岡本太郎は、東京国立博物館で初めて目にした縄文土器に衝撃をうけ、1952年に「縄文土器論」を発表しました。それは敗戦後の欧米文化崇拝の思潮のなかで埋没し,消え去ろうとしていた日本の文化への関心を呼び覚まし、1957年の『藝術新潮』における「藝術風土記」の連載へとつながっていきました。岡本が精力的に日本各地を取材し、生活する人々の姿や風物を切り取った写真は、単なる地域性を超えて,日本人と日本文化の深層をゆり動かしました。
この展覧会は、岡本太郎が50年前に「藝術風土記」で発表した写真によって、彼がファインダーを透して汲み上げ,見据え,提示した「日本」を,現代に生きる私たち自身の眼で再検証しようという試みです。