牧野宗則氏は、日本が世界に誇る浮世絵木版画の彫りや摺りの技術を修得し、かつては絵師、彫師、摺師が分業にしていた全ての工程をたった一人で手掛けている現代木版画家です。北斎や広重といった江戸の浮世絵師たちの精神を受け継ぎつつも、その高度なテクニックによって自然の生命の輝きを色鮮やかな木版画で表現している牧野氏は、まさしく伝統と革新の両面を備えた稀有な存在であり、2003年には文化庁長官表彰を受賞するなど内外で高い評価を得ています。
太田記念美術館では過去2回にわたり牧野宗則氏の展覧会を開催してきました。浮世絵を専門に扱う当館では現代作家の作品を扱うことは基本的に無く、当時のお客様の中には驚かれた方もあったようです。しかしながら、伝統を誇る浮世絵版画の技術と芸術性を追求する創作版画の精神を見事に融合させた牧野氏の活動は、我が国の木版画芸術の将来を考える貴重な指針であり、展覧会を通じて多くの皆様にご鑑賞いただく意義もそこにあろうかと確信しております。
第3回となる今回の展覧会では、「秋の声」(2006年)「まほろば」(2008年)など、前回の展覧会以降に制作された木版画を中心に展示するとともに、色鮮やかな版木を組み合わせた「ブロックス・アート」という新たな境地の作品もあわせて公開いたします。さらなる創意工夫を重ねて進化を繰り広げていく牧野宗則氏の美の世界をお楽しみください。
展覧会会期中、太田記念美術館の収蔵品を同時公開いたします。牧野氏の出発点ともいえる、北斎、広重など、江戸の浮世絵師たちによる高度な浮世絵版画の世界をお楽しみ下さい。