昭和期の神戸において、近代洋風建築が建つ旧居留地や北野の風景を題材に描くことが当地の画家たちに好まれました。神戸の自然と建築を描いた作品は、モダンでエキゾティックな神戸のイメージをつくり上げることに寄与したと言えるでしょう。本展では別車博資(べっしゃひろすけ)、小松益喜(こまつますき)、神原浩(かんばらひろし)、元川嘉津美(もとかわかつみ)などが昭和初期から昭和30年代(1926~1964)にかけて制作した、建築を主題とする作品を紹介します。
また、神戸モダニズムの形成に重要な役割を果たした画家・版画家である川西英(かわにしひで)が昭和38年(1963)に制作した「兵庫百景」を初めて一括で特集展示します。戦前に版画の代表作「神戸百景」(1933~36)を発表し、戦後は神港(しんこう)新聞社の依頼により画集『神戸百景』として知られる描画シリーズ(1952~61)を制作した川西は、三度目の百景として、神戸新聞社の依頼を受けて兵庫県内のさまざまな風物を描く試みを行ないました。それが昭和37年1月から同38年12月にかけて、神戸新聞の日曜夕刊1面を飾った「兵庫百景」です。
今回公開される「兵庫百景」は、その貴重な肉筆原画で、晩年の基準作と言える資料ですが、さらにこの「兵庫百景」、実は神戸新聞社のためにもともと制作した描画とは別のセットという珍しい新出資料なのです。川西英自身が細部まで忠実に写して、色紙に描いた異版の肉筆画で、神戸新聞の連載記事と比較することもおもしろいでしょう。
「兵庫百景」には、チャータードビルが描かれた≪神戸海岸通≫をはじめ、豊かな自然と文化遺産を持つ県内の風景と名所にあふれています。ぜひ、コンパクトに“ひょうご見る旅”をお楽しみください。