佐伯留守夫(1921~1986)は、川上澄生(1895~1972)の旧制宇都宮中学校(現・
栃木県立宇都宮高等学校)時代の教え子であり、版画同好の生徒により創刊された
版画誌『刀』に創刊時から卒業まで作品を寄せるなど、版画には早くから頭角を
現しました。一方、川上は『刀』においてアドバイザー的役割を果たし、また自ら
作品を寄せ、教師としてだけでなく版画家として生徒から厚い信頼を得ていました。
佐伯の版画制作は、東京美術学校(現・東京藝術大学)彫刻科進学後も続き、
小野忠重を中心とした新版画集団の結成に参加するなど精力的に作品を発表しました。
師である川上もまた、新版画集団と関わりを持ち、2人の接点がとぎれることは
ありませんでした。
2人の絆がより深まったのは、佐伯が徴兵から復員し、川上が疎開先の北海道から
戻った後の1949年頃からです。佐伯は、宇都宮で中学校の美術教師をしながら
彫刻家として活動しました。その一方で版画制作を続け、川上が主宰する版画誌
『鈍刀』に作品を寄せることで、『刀』以来再び二人の作品が集うことになりました。
川上は、佐伯に額縁制作や彫刻刀の研ぎを依頼するなど、厚い信頼を寄せていました。
本展は、佐伯留守夫と川上澄生の木版画が結んだ絆に注目し、彫刻家として
川上の期待に応えようとする佐伯と、木版画家として教え子の佐伯に絶大なる信頼を
寄せた川上、2人の信頼関係から育まれた作品を紹介するものです。