ヨーロッパの版画の歴史は、東方からの紙の伝来にともない14世紀末の木版画によって始まります。15世紀に入り銅版画が発達すると版画は広く普及し、ルネサンスの息吹をヨーロッパ各地に浸透させていきました。テレビやインターネットはもちろん、現在のような印刷技術のなかった時代、版画はマスコミュニケーションの道具としての役割を担い、当代の巨匠による作品の数々を伝えていったのです。19世紀にはリトグラフという新技法も登場し、版画の表現はさらに豊かで多様なものとなって、多くの芸術家による作品が生み出されています。
ときには手のひらにおさまるほどの小さな紙片でありながら、宗教・神話・文学・道徳・寓意・風俗など様ざまな物語が繰りひろげられる小宇宙。芸術品としての版画の魅力は、その小さな画面に無限の広がりと、悠久の時間を感じさせるところにあるのでしょう。
今回、紹介する作品は、一人の日本人コレクターによって50年の歳月をかけて蒐集されたものです。西洋版画の草創期から近代までの版画史を展望する貴重なコレクションで、西洋版画の魅力をお楽しみください。