ドイツ・デュッセルドルフを拠点に活動するミシャ・クバル(1959- )は、1980年代半ばから照明器具やプロジェクターが発する人工の光を、都市空間の中で投射するプロジェクトなどを各国で行ってきたアーティストです。これまでに高層ビルの室内の明かりを夜間に点灯し、その巨大な光の彫刻となったビルの姿を都市の夜空に浮かび上がらせたプロジェクトや、建物の壁面に光の図形や映像を投射したインスタレーション、そしてアルファベットの光の文字を用いた作品など、私たちが暮らす住空間や公共空間に光を介して再考を促す作品を発表してきました。
本展覧会は、これまで東京国立博物館の展示室や東京・六本木のビルなどでプロジェクトを発表してきたクバルの、日本で最初の大規模な個展となるものです。会場では、クバルが各国の都市を訪れて制作してきた作品に加え、本展覧会のために準備した新作映像なども紹介します。ネオンサインや自動車のヘッドライトなど、様々な光が情報の渦のように氾濫する現在の都市。クバルはその都市空間の特性を、光の投射という極めて簡潔な方法によって気づかせると共に、人々の身体に眠る視覚の根源的な次元を呼び覚まそうと試みます。その単純でありながら意味深長な表現は、自らの眼を通して観ることや、社会について考えることの大切さについて、私たちに改めて示唆することでしょう。