サルヴァドール・ダリ(1904-1989)はシュールレアリスムの画家として広く知られていますが、彼は絵画や彫刻にとどまらず、映画、演劇、広告など様々なメディアで創作活動を展開しました。そのように多彩なダリの創作活動の中で、書物は小さからぬ位置を占めています。多くの論考や小説、詩を自ら執筆しただけではなく、文学作品のための挿画も数多く手がけました。その中に、本展で紹介する『マルドロールの歌』の挿画があります。この連作版画をダリは1933年に手がけ、版画集としては1934年と1974年に、いくつかのヴァージョンで出版されています。
『マルドロールの歌』は、1869年にイジドール・デュカスがロートレアモン伯爵の筆名で発表した長篇散文詩です。悪の化身マルドロールを主人公に、難解な比喩の連鎖で綴られるこの散文詩は、シュールレアリスム運動に多大な影響を与えた作品として有名です。
ダリは『マルドロールの歌』からインスピレーションを得て版画を制作していますが、そこに展開されているイメージはテキストから飛躍したダリ独自の幻想的な世界となっています。ダリの絵画作品に現れる特徴的なモティーフも散見され、ダリの挿絵画家としての側面を知るうえだけではなく、シュルレアリストとして独自な世界を拓き、確立していった彼の初期の創作を知るうえでも、重要な作品のひとつです。