湯原和夫(1930- )は若い頃にフランスに渡り、およそ20年間、パリの環境に身を置いて制作し、その後も時代をリードする作品群を国内外で発表し続けてきました。厳しく研ぎ澄まされた感性と大胆な造形思考をもって生み出されたその抽象彫刻は、力強いスケール感があり、国外でも高く評価されています。
湯原和夫は古典的な彫刻では使用されなかったような素材、たとえば、フェルト、ガラス、鏡面ステンレス、あるいはコンクリートの敷石、ガードレールといった素材を見出し、物の存在をひたすら突き詰めて、その根源に近づこうとしつつ、作品の物質性を豊かに開いてゆきます。物がそこに在るという、一面ではひどく素っ気ない存在の様態を、美術のものに転化し、もともと物に過ぎない作品を、それ自体で自律する強固な作品空間に変容させてゆきます。その作品世界は、禁欲的であると同時にエレガントであり、またどこか官能的ですらあります。
本展では近年制作された立体作品を中心に、新作の壁掛けのペーパー・ワークなど、約50点を展覧いたします。厳しく、自己の造形を律しながら、ひたすらに造形の純化につとめてきた足取りを示す作品群と、あくなき挑戦の証しとしての新作群が展開されます。現代の美術の真摯な探究者が生み出す、稀有な質の高い造形世界を堪能していただければ幸いと存じます。