これまで沖縄をテーマとした展覧会は数多く開催されてきましたが、その多くは、琉球王朝の優美な工芸を展覧するものでした。では、その琉球が沖縄県として日本の版図に組み込まれてから数百十年の間に、この地はどのような表現を生み出してきたのでしょうか。
「沖縄・プリズム 1872-2008」展は、近代という時代のうねりの中で、沖縄から誕生した美術を検証する初めての試みです。豊かな自然や伝統文化、あるいはその苦難に満ちた歴史や政治的状況から、様々な作家を創作へと駆り立ててきた沖縄。この展覧会の目的は、視覚的表現を通して、沖縄という場所の意味と可能性を、今日的な視点から考察することにあります。
したがって表現する主体は沖縄出身者に限りません。周知の通り、沖縄は多くの本土出身の作家を魅了し、触発する場所でもありました。本展覧会では、沖縄出身の作家にとっての「沖縄」と本土出身の作家が見つめた「沖縄」を対比させ、両者の共通点や相違、あるいは緊張を孕んだ関係の中に、表現の源泉としての沖縄の潜在力を見出していきます。絵画、版画、写真、映画、工芸等、様々なジャンルの作家34名の作品がプリズム状に乱反射する展示を通して、いったいどのような新しい沖縄像が浮かび上がってくるのでしょうか。そこから沖縄を深く考え、自己の立脚点を確かめ、さらには世界を認識するための新たな視野が開けてくることを期待しています。