熊野三山のひとつ和歌山県東牟婁郡那智勝浦町に所在する那智山は、「一滝」と呼ばれる那智滝が、古くからご神体として信仰の対象となってきました。それを裏づけるように那智滝参道付近から大正7年(1918)と昭和5年(1930)に経筒、仏像、鏡像、仏具等、大量の仏教遺物が発見されました。経筒が70口近くも出土しているので、大規模な経塚があったものと思われますが、とくに注目されるのは密教の金剛界曼荼羅の、成身会を構成する仏像や三昧耶形が出土したことです。一般に曼荼羅は紙や絹布に描かれますが、これは半肉仏像と鋺形の蓮台上に置いた三昧耶形とで立体的に表したものであり、他に類例を見ないたいへん珍しいものです。