国宝「源氏物語絵巻」(徳川美術館・五島美術館蔵)は、源氏物語が執筆されて焼く100年後の12世紀前半に制作された作品です。この貴重な作品の原本保存と絵巻の普及を目的として、近代以降さまざまな模写・複製が作られてきました。本展ではその代表的なものとして、田中親美(1875-1975)による復元模写、川面義雄(1880-1963)による木版画をとりあげます。
田中親美の仕事は模写とはいえ、例えば料紙装飾においても原本と同じ工程で制作するなど、古来の伝統統技術を復元する大事業ともいえるものです。源氏物語絵巻のほか、西本願寺本三十六人集、平家納経も合わせて展観し、完成度の高い模写の意義というものを考えさせてくれます。
一方、川面義雄は、この絵巻を精巧に木版画で再現することに挑みました。1枚の絵に15~16枚の版木、しかしその刷り後から80回くらいの刷りがなされたことがわかります。装飾性の高い絵巻の細部に至るまで再現しようという強い執着が感じられる木版です。
両者の作品の展示によって、古美術の保存やその普及に関わる優れた伝統的技術を再確認できる機会となるでしょう。