日本が幕末に出陳したパリの万国博覧会以来、西洋では有田、また薩摩の和陶磁器に対する関心が急速に高まり、ウィーン万博を経て、その需要に応える時代が続きました。一方国内では鹿鳴館に象徴される西洋文化の導入とともに、ヨーロッパの製陶を学ぶ時代を迎え、有田をはじめ、京都、瀬戸、横浜で和製の洋食器が作られるようになりました。殖産興業の助成金を得て、各地に製陶所を起業しましたが、当時の生産能力や守旧的なデザインでは海外の市場に十分に応えるものではなかったようです。
そのような和製洋食器の低迷のなかで、オールドノリタケを中心とした輸出陶磁器が、欧米で受け入れられるに至ったのは、ヨーロッパの名窯に倣い、その図案を模写・吸収して、しかも廉価であったからと言えましょう。とくに第一次大戦下では、ヨーロッパの名窯が疲弊し、アメリカをはじめとする世界の需要に応えられず、わが国の洋食器が海外市場へと進展していきました。それらは「NIPPON」と言われ、輸出陶磁器の多くは欧米人の好みにあわせたもので、国内消費を喚起するデザインとは違うものでした。そして、この時代までが、わが国では洋風陶磁器の質と技術を高めた学習期間と位置づけることができます。
アール・ヌーボー、アール・デコが入ってきた大正から昭和初期にかけて、都市では、カフェーや洋食店、デパートがハイカラなライフ・スタイルを提供しはじめました。以来、それまでの派手な輸出陶器とは違う、わが国ならではの和洋融合のデザインを創出し、名実ともに日本の洋食器が花開くこととなりました。本展はそのような明治から大正期における輸出陶磁器を概観した上で、世に大正ロマン、昭和モダンと言われ、日本人の好むデザインへと発展した洋風陶磁器を一堂に会し回顧する、わが国初の総合的な展覧会です。日本の近代化の縮図を、洋食器を通して感じることができるのではないでしょうか。