落語・講談・浪曲などの口承文芸の源流に「唱導」があります。唱導とは中世の僧侶が法会に際して説話を語り、仏道に入ることを勧めるわざをさす言葉です。
「唱導」には、古今東西のさまざまな説話が引かれ、人々の興味を引く話題が盛り込まれていました。そのような説話は、『今昔物語集』に代表されるような説話集として編集され、書物にまとめられた形で伝わっています。
ところが、金沢文庫保管・重文「称名寺聖教」には、僧侶が懐中しやすいように、およそ5寸(約15センチ)四方の枡形本と呼ばれる小さな正方形の装丁で作られた「唱導」の台本がたくさん残っています。「説草」と呼ばれるこれらの唱導・説教の台本は、寺院で管理しやすいように詳細な目次・細目が記入されたり、記号や千字文で分類されるなど、鎌倉時代に実際に使われた時の姿が残っているために珍重されています。
今回の企画展では、称名寺聖教に含まれる小型の「説草」の全体像を紹介し、中世の寺院における説話の管理や利用の様相について考えてみたいと思います。