明治期の洋画に関する展覧会は、通史的なものから個人や団体に焦点を当てたものなど、様々な視点で開催されてきました。本展「明治の洋画―解読から鑑賞へ―」では、“解読”と“鑑賞”をキーワードとすることにより、明治の洋画が、当時の人々にどのように受けとめられていたかを考え、作品を享受した“観客”の存在を浮かび上がらせたいと考えます。
明治期には、名所や神話、歴史を題材とした作品が数多く描かれました。当時の人々にとって、江の島や上野東照宮など江戸以来の名所は、実際に訪れて、あるいは浮世絵などで見知ったものであり、神話や歴史は、書物や言い伝えなどで、内容を聞き知ったものでした。それらを描いた作品は、いわば当時の人々が抱いていたイメージを絵画化していると言えます。そこで、作品を見る者は、描かれた意味内容を“解読”し、自らのイメージと重ね合わせ、同じように意味内容を理解した周囲の人々と共に楽しむことができたと考えます。
その一方で、名もない場所の何気ない風景を捉えた作品が描かれるようになると、描かれた場所の特定は重要ではなくなります。見る者は画家の眼を通して風景が宿す美を発見し、様々な情感を抱いたことでしょう。また、読書をテーマとした女性の姿が多く描かれましたが、後ろ向き、あるいは読後感に浸る姿などからは、単なるポーズである以上に、読書によってもたらされた女性の心の動きを見る者に想像させたと思われます。見る者が作品から内面性を感じ取る見方を“鑑賞”と捉えるならば、そこに近代的な“観客”の姿を見出すことができるでしょう。
そこで、作品から内容を読み解くような見方を“解読”、内面性を感じ取るような見方を“鑑賞”と捉えて、明治の洋画が、当時の人々にどのように享受されていたかを探ると共に、現在の鑑賞のあり方について思いを馳せたいと思います。