「ブータン 内なる聖地」は、井津建郎(いず けんろう)の当館における三回目の個展となります。当館では、これまで1996年に「アンコール遺跡:光と影」、2001年に「アジアの聖地」を開催いたしました。本展は、2007年11月、ニューヨークのルービン・ミュージアムにて開催されたものですが、日本での発表は当館が初めてとなります。
これまで井津建郎は、エジプトのピラミッドを始め、スコットランドのストーンヘンジやカンボジアのアンコール遺跡、チベットのカイラス山など、数世紀にわたり人々が崇め、祈りの込められた世界の石造遺跡を訪ね、25年にわたって撮影を重ねてきました。そして、過酷な自然と時の流れに抱かれたその風景は、井津のプラチナ・プリントの静謐な空気感と、大型カメラによるディテールの精密な写真表現とが生み出す比類ない美しさによって、見るものを惹きつけてきました。
プラチナ・プリントは、文字どおりプラチナを利用した、古典技法として現代に残っている数少ない技法のひとつです。また、井津建郎のプラチナ・プリントは、世界でも第一人者として高い評価を得ています。
20年にわたり世界各地の<石造遺跡>を見つめて来た井津の眼差しは、いつしか、現在も遺跡を心の拠り所として祈りを捧げ、守り続ける<人びと>へと向けられて行きました。遺跡は、人びとの心の<内なる聖地>そのものなのだという新たな境地が、写真家を新たな地、ブータンへと導きました。ブータンと出会い、6年にわたる撮影を終えた井津建郎の作品は、これまでとは異なる新しい世界を提示しています。人びとは何を求めて聖地を訪れるのか、聖地をつつむアウラは何を意味しているのか、それを読み解こうとするとき、ひとはまず自分自身を知ろうとするのかもしれません。井津は、ブータンの<内なる聖地>、その有りようをどのように写真に捉えたのか─。新作73点をどうぞご覧ください。