武者小路実篤が、雑誌『白樺』で、ロダンはじめ、セザンヌ、ゴッホら後期印象派などを本格的に日本に紹介したことはよく知られています。しかし、実篤への関心はこれらに留まりません。
白樺創刊以前の学生時代から最晩年まで、変わらず美術へ強い関心を持ち、洋の東西や時代に関わりなく、自らの心に響くものを求め続けました。生涯ただ一度の欧米旅行は、美術館を巡ってこれまで印刷でしかみられなかった西洋美術作品の実物を見、昭和11年(1936年)当時活躍していた芸術家たちに会う事を目的としたもので、実際にピカソ、マチス、ルオー、ドランを訪ねています。
常に新しい作品や作者に出会うことを楽しみとし、折に触れて美術書を買い求めて日常的に眺め、実篤が亡くなった時に残された蔵書は洋書を含め800冊近くに上ります。また自ら収集も始め、好きな作品を身近に置いて日々楽しみました。
このような幅広い美術への増詣から、数々の美術論を著し、また主宰した雑誌では毎号作品紹介を執筆しています。
実篤がその著作で言及した芸術家は古今東西に及びますが、本展覧会ではこのうち実篤の収集美術品を軸に西洋美術を中心にとりあげ、レンブラントやデューラーからピカソやルオーに及ぶ関心の広がりと柔軟な感性を、それらに関する原稿や資料を交えてご紹介し、実篤が美術へ注ぎ続けた眼差しをとらえることを試みます。