1942年、長野県千曲市に生まれた若林文夫は武蔵野美術大学で日本画を学びました。1990年にはハンガリーへ渡り、国立バーツ版画工房で版画制作の研鑚を積みました。帰国後は故郷にアトリエを構え、版画家として活躍の場を広げ、2004年からは信州版画協会会長に就任しております。銅版画(カラーエッチング)は、中世の職人さながらの手仕事によって、銅板にモチーフを刻み付け紙に刷り上げていきます。利便性を追求する現代にあって、文明と逆行するような手間のかかる製作工程をあえて繰り返す中に、作者は現代版画の役割と命題が隠されていると語ります。人と人との出会いが希薄化し、直接的な触れ合いを敬遠する今の時代に、作家は何をなすべきか。芸術は個の営みであり、その個を大切にできる社会かどうかを映し出すのも芸術の役割であると考える版画家の精神の軌跡をとどめる世界をご覧ください。