七宝は、ガラス粉を焼き付けて文様を描いていく工芸技法です。日本には7世紀ころに大陸から伝わり、桃山から江戸時代の釘隠や襖の引き手、刀装具などの装飾に使われていますが、一般には広まりませんでした。
日本の七宝技術が大きく花開くのは明治になってからのことです。尾張の梶常吉は、舶来の七宝から釉薬などの材料や製作技法を独学で習得し、金属胎に細い金属線を特殊な糊で付けて文様の輪郭を作り、そこに釉薬を差して焼成するという「有線七宝」の技術を完成させました。これによって、自在に植線を操り、まるで絵画のような表現が可能になったのです。
花鳥風月をモチーフに、情感豊かな意匠を得意とした尾張の林小伝治(はやしこでんじ)。黒色の釉薬を開発して艶やかな世界を展開した京都の並河靖之(なみかわやすゆき)。釉薬を差したあと植線を抜くことによって、筆で描いたかのような独特の表現をものにした涛川惣助(なみかわそうすけ)。彼らの作品は、欧米で開催された万国博覧会にも出品され世界の人々を魅了しました。
本展では、世界屈指の七宝コレクションを誇る清水三年坂美術館の所蔵品を中心に、国内外の博覧会に出品された作品も交えて、近代工芸の白眉ともいえる明治七宝の世界を紹介します。