本展は、現在最も注目される作家、ロン・ミュエック(1958-)の作品を総合的に紹介する日本で初めての個展です。 映画やテレビ番組用の模型作りの経歴をもつミュエックは、シリコンやファイバーグラスといった素材を駆使し、古典的な彫塑の手法を用いて、人間の身体を精緻な彫刻によって表現しています。 長く綿密なプロセスを要する制作の中で、ミュエックは、素材やモチーフとの対話に全身全霊を捧げ、作品を完成させます。 髪や皮膚の下の血管まで克明に描出する極限のリアリズムと、巨大であったり極小であったりするサイズの非現実性が交錯する作品世界は、現代社会における人間の存在性についての批評ともとらえられます。 身体と精神、日常と非日常を横断するミュエックの作品世界は、「創造」と「人間の存在性」の関係という芸術における根源的な問題を我々に鮮烈に突きつけてくるでしょう。