土門拳の住んできた明石町の家の襖には、撮りたい人物の名前がびっしりと墨筆され、撮り終わった人から墨線で消されていました。線が多くなると襖紙をまた上に張り、また新しく名前を書き並べたので、襖が分厚くふくれたといいます。
戦前から戦後にかけて15年間、そうして撮りためた土門自身が尊敬する人、好きな人、親しい人たちの肖像写真の中から、昭和28年、写真集『風貌』(アルス社)が刊行されました。高村光太郎をして「土門拳はぶきみである。土門拳のレンズは人や物の底まであばく」と言わしめ、また、あまりの執拗さに相手を怒らせるなど数々の撮影エピソードを生んだ人物写真の傑作です。
今回の展示では、写真集発刊時に各写真に添えられた、土門拳の文章もあわせて紹介します。昭和を彩る巨匠達と土門との魂のぶつかり合いが、写真の奥底から浮かび上がってくるようです。