20世紀後半の日本を自由奔放に駆け抜けながら、その溢れる才能を幅広い分野でいかんなく発揮した池田満寿夫(1934-97)が急逝して08年で11年が経ちます。ニューヨーク近代美術館での日本人初の個展(1965年)やベネチア・ビエンナーレ展での国際版画大賞受賞(1966年)など、版画家として早熟の才を発揮し、また、1977年には小説『エーゲ海に捧ぐ』で芥川賞を受賞し、翌年にはその映画化に際し自らメガホンを取ったことはよく知られています。版画家、画家、挿画家、彫刻家、芥川賞作家、エッセイスト、浮世絵研究家、脚本家、映画監督、TVタレント、陶芸作家など、さまざまな肩書きを持つ池田ですが、晩年の彼が陶芸制作に没頭したことはあまり知られていません。
版画家として高く評価されているものの、残された作品の数では、版画約1000点に対して陶芸作品は3000点以上にのぼります。池田満寿夫を語るときにしばしば引合いに出される言葉に「エロス」がありますが、陶芸を始めて以降は、版画でも淋派などの日本の古典に触発された作品が制作されたほか、陶芸作品の代表作として<般若心経>シリーズが制作されました。その独創性と想像力に満ちた、力強い造形表現は今日高く評価されるものですが、生前それが正当に評価されることは、残念ながらありませんでした。
この展覧会では、油彩、水彩、コラージュ、版画、彫刻、陶芸、書など、多岐にわたる池田の制作活動の振幅を、新発見や未発表の作品、資料を含めながら紹介し、つねに時代の先端を突き進んだ稀有な美術科の知られざる全貌を再評価しようとするものです。没後、数回開かれた版画中心の回顧展とは異なり、版画と陶芸作品がほぼ同数で構成されます。