植田正治の写真の中に流れる空気には豊かな詩情と物語の予感を感じさせるものがあります。事実、植田は少年の頃から物語や詩歌、童謡を好み、また土地に代々伝わる民話の語り聞かせを楽しみました。1960年代撮影のシリーズ「童暦」に登場する四季折々の子供たちの姿は、懐かしい童謡の世界を描き出しているように見えます。また、山陰の風景を表情豊かにとらえたシリーズ「出雲」の作品群は、1975年に立原道造詩集『失なわれた夜に』(サンリオ出版)の中で詩とともに構成され、その装丁を飾っています。
今回の展覧会では主にシリーズ「童暦」を中心に、今回初の公開となるシリーズ「山陰叙情」その他を交え、さまざまな作家による詩や童謡の世界との構成を試みました。豊かな日本語の詩が描き出す風景と、詩情性豊かな写真が奏でる新しい物語の世界の組み合わせをどうぞお楽しみください。
【主な出品作品】
シリーズ「童暦」より(1955―70年)
シリーズ「山陰叙情」より(1960―72年)
シリーズ「出雲」より(1964―80年)