故所荘吉氏(昭和4年~平成12年)は、東京生まれの日本を代表する砲術史研究家で、氏が収集した鉄砲史関係資料を「所コレクション」と呼び、なかでも和洋の砲術古文書典籍類からなる「青圃文庫」は、一般に公開されていない貴重書である。このたび、和流砲術書と鉄砲類が国立歴史民俗博物館へ、西洋流砲術及び兵学書が板橋区立郷土資料館へと分散収蔵された。
さて、東京の北西に位置する板橋区の西側は、江戸時代中期以降、江戸近郊における幕府の鉄砲稽古場あるいは大筒・大砲場と呼ばれた徳丸原が所在し、特に幕末の天保12年(1841)5月、長崎町年寄にして西洋砲術家高島四郎太夫秋帆が、日本最初の本格的な西洋式銃陣を披露した土地として有名である。現在、高島平の町名で呼ばれ、その地名発祥の人物が高島秋帆である。この由縁をもって当館は、高島秋帆を中心とする幕末西洋砲術に関わる資料を収集して、過去数回特別展を開催してきた。
今回、所コレクションの収蔵によって、当館は日本屈指の西洋砲術及び西洋兵学資料を所有することができた。これらの資料群は19世紀初頭の、いわゆる異国船来航による対外危機と情報収集過程での軍事に関する蘭書の翻訳本や、高島秋帆のオランダ式軍事研究、アメリカ使節ペリー来航と開国過程での海外軍事研究の開始、イギリス・フランス式軍事教練の導入と明治維新による幕府崩壊と、幕末明治までの西欧軍事書の翻訳書類や調練図、陣地・武器図に関する貴重な資料で構成され、そのほとんどが未公開資料である。
展示開催にあたって、このような貴重な資料の譲渡を承諾していただいた所コレクション関係者に対して厚く感謝申し上げると共に、これらの資料が今後の幕末維新西洋兵学研究の糧となることを祈念しつつ、あらためて故所荘吉氏の功績を讃えたい。