現在、工芸科には彫金・鍛金・鋳金・漆芸・陶芸・染織・木工芸・ガラス造形の8つの研究室があり、各専攻の教員も作家としてそれぞれの素材や技法を駆使しながら表現活動を行っています。工芸の表現において特徴的なことは、素材とそれを活かす技術の上に成り立つという点があげられます。そして素材を手で触って培った感覚でものをつくり出す力は工芸の低力に結びつくものと考えます。
私達は東京美術学校時代から受け継ぐ、素材に対しての知識、技法の伝承を学生とともに日々研究していますが、その中にあって現在の表現、それぞれの素材と真摯に向き合う精神性を持ちながら、単なる伝承だけに留まることなく、表現の方向性を拡げています。それによって従来の工芸のイメージとは異なる作品も登場し、時代の流れの中に生まれる思考は「工芸」に対しての解釈のかたちまでも自由にしています。
ここに「工藝考」をテーマとして本展を企画するにあたり、その目的は手わざによるかたちを生み出す工芸の魅力を再確認すること、また、表現の可能性を引き出すことにあります。素材の形や色の成り行きに一喜一憂する、そういった一途なまなざしを伝えることで、東京藝術大学工芸科の持つ世界観の一端を感じて頂けることと思います。