アハティラはヘルシンキの美術学校に学んだ後にロンドンやロサンジェルスで映像を学びます。2000年にゴッホにちなんで創設された「ヴィンセント賞」の第1回受賞者となったほか、ベネチア・ビエンナーレやドクメンタ(カッセル)など数々の重要な国際展やグループ展、映画祭への参加はもちろんのこと、テイト・モダンやキアスマ現代美術館(ヘルシンキ)での大規模な個展や2003年東京オペラシティ・アートギャラリーでの個展、またニューヨーク近代美術館(MoMA)でも作品が発表されるなど活躍が続いており、2008年1月からはパリ、ジュー・ド・ポーム国立ギャラリーでの大規模な回顧展開催が予定されています。
アハティラは自らの作品を「ヒューマンドラマ」と称します。愛や嫉妬、怒り、和解といった人間関係に横たわる強烈な感情やセクシュアリティ、コミュニケーションの難しさ、アイデンティティなどを彼女の作品の中に見出すことができます。アハティラが映像や写真を通じてみせる物語性は、冗長な期間から得られたリサーチやアーティスト自身に起こった経験や記憶に基づいて作られた虚構の世界でもあります。
国内では唯一の会場となる本展覧会では、2005年第51回ベネチア・ビエンナーレに出品され賞賛されたビデオ・インスタレーション作品《祈りのとき》“The Hour of Prayer”(2005)を展示します。これは愛犬の死というアハティラ自身の体験に基づき愛情と死を取り上げた作品で、日々の生活の中に訪れた死とその嘆きをいかに処してしくかという過程が1月の冬の嵐吹きすさぶニューヨークから北欧、11ヵ月後の西アフリカ、ベニンでの出来事まで、4面のスクリーン上に展開されます。スクリーンに映し出された語られる出来事や時間、景色のうつろいは、ドキュメンタリー要素と個人の経験を往来し、やがてインスタレーション空間に身を置く鑑賞者をも巻き込んでいきます。
本展では新作《漁師たち》“Fishermen”(2007)のビデオ・インスタレーションと写真作品もあわせて展示。いかに作品と出会うか熟考されたインスタレーション空間において、アハティラの新作は鑑賞者がこころの内側にじっと向き合うよういざなうことでしょう。