「ぼくにとって仏像の顔を思いかえすのは、恋人の顔を思い浮かべるようなものである。ひとつひとつを頭に浮かべていれば、何時間でも退屈することがない。「土門さんは、ずい分たくさんの恋人がいるんですね。浮気性ですね」といわれても、ぼくは甘んじて受ける。ぼくの撮ったすべての仏像が仏像巡拝中に出会った素敵な恋人たちである。何とも幸福なことではないか。」
昭和46年 土門拳「仏像巡拝」より
土門拳は、戦前戦後を通じ、全国各地の仏像を撮り続け、好きな仏像に力強く迫る独特のカメラアイで表現しました。飛鳥時代から鎌倉時代につくられた国宝、重文を中心とする数々の仏像と、土門の眼との出会いによって生まれた写真作品には、それぞれの仏像の持つ美しさ、力強さ、日本文化の奥深さが、みなぎっています。
写真と共に、土門拳がそれぞれの仏像に寄せたエッセイもあわせて紹介いたします。