日本への仏教公伝が6世紀中頃。古事記、日本書紀が成ったのは8世紀初め。これら仏教の仏たちと記紀の神々が本地垂迹として習合されたのが9世紀。16世紀の民間信仰から興り、仏教、神道、中国の道教が混淆し17世紀に定着したのが七福神で、神仏分離令(神仏合併布教廃止令)が19世紀後半。時代の流れに応じて、人々は信仰と崇拝のための偶像をつくり続けてきました。
本来、それらの偶像は美術品、あるいは芸術品として制作されたものではありませんでした。そこには、ただ、偶像をつくる者、拝む者の信仰心があるのみで、幸せになることを念じ、願い、犯さざるべき聖なるものに語りかけた人々の切ない思いが込められていました。聖は「い」、語り告げることは「のる」、この根源的で原初的な宗教行為のことを私たちは「祈る」といいます。
とはいえ、遺されてきた偶像には、結果的にその技術と相まって高い芸術性が備わっている作品もあれば、彫刻家等により初めから美術作品として制作された作品があることも事実です。いずれにせよ、これらの作品には、制作の発案者や制作者の「祈る」ことに対する強い情意が込められているといっても過言ではないでしょう。
本展覧会では、仏教、垂迹、道教、中国神話に取材した所蔵作品の中から、等坡や等碩などの日本画、藤島武二や海老原喜之助などの素描、安藤照や新納忠之介の彫刻、偶像が描かれた薩摩焼などの工芸、約25点を展示し、作品に込められた作者たちの「祈る」心を紹介します。