現代の洋画壇を代表する画家の一人である奥谷博(1934-)。高知県宿毛(すくも)市に生まれた奥谷は東京藝術大学で林武に師事し、抽象画全盛であった風潮に反し、一貫して具象画を描きつづけてきました。壁画を模写した経験を通じ、初期の厚塗りから薄塗りの技法へと転換して以来、鮮明な色違いによる作品は多くの人を魅了してやみません。
2度の滞欧生活の中で日本人としていかに油彩画に取り組むべきかとの考えを深め、独立美術協会展や個展などでその成果を披露しています。2007年春にはパリ・ユネスコ本部で日本人洋画家として個展を初めて開催し、世界各地に点在する世界遺産を題材とした作品群は、大きな反響を呼びました。昭和会賞や宮本三郎記念賞、芸術選奨など数々の受賞歴を誇り、さらにはこのたび文化功労者として顕彰され、洋画界の重鎮としてその創作活動は注目を集めています。
本展では、芸大受験時に持参した《20歳の自画像》(1955年)に始まり、最新作にいたる油彩画約60点と素描作品をあわせて展示し、およそ半世紀におよぶ画業を展望します。「描くことは生きること」を信条とし、ただひたすらに描いてきた画家の足跡をたどることができるまたとない機会となることでしょう。