江戸時代中期(17世紀末期~18世紀前期)に京都のやきもの界に一大革命を起こした乾山焼。乾山焼は、琳派の大成者・尾形光琳の実弟の尾形乾山が興したやきものです。王朝趣味の伝統意匠や、琳派的な華麗な装飾でうつわを飾り、京の懐石器の原点として現代人をも魅了しています。
尾形乾山が京都の右京、仁和寺の奥に位置する鳴滝に窯を築いたのは、元禄12年(1699)でした。この鳴滝窯は、昭和初期に発見されて以来、じつは正式な発掘調査がなされることがなく、謎のままでした。
そこで、平成12年(2000)に「法蔵寺鳴滝乾山窯址発掘調査団」(出光美術館も参加)が結成され、初めて科学的な研究のメスが入れられました。5年間におよんだ発掘調査により、予想を超える種類の陶片が採取され、本展は、その成果を踏まえて浮かび上がってきた乾山焼の姿を、新たに提示することを目的にしています。
この度の調査の結果、乾山はそれまでになかった芸術性の高いやきものを創出し、京焼の世界に新しい地平を切り開いたことが明らかになりました。乾山は当時、長崎を通じて中国の最先端の文化が流入していた黄檗宗の嵯峨野・直指庵に参禅し、霊海の号を得ていました。この国際色豊かな教養やファッション性をもっていた黄檗宗のネットワークのなかで、乾山は和漢の国際的な文化を背景とした、懐石のうつわなどへ積極的に取り組んでいたのです。
乾山焼の真の姿、そしてその造形の魅力とは、いったい何だったのでしょうか。今回はその点を追求していきます。本展では、重要文化財11件をはじめとする、館外の秀逸な名作を出品し、現在実現できうる最高の「乾山焼」の展覧会を目指します。陶芸ファンばかりでなく、広く日本の古美術愛好家の方々には見逃すことのできない盛りだくさんな内容です。
うつわに描かれた美の世界の醍醐味を、存分に堪能していただけると幸いです。