県内の美術状況を紹介すると共に、分かりにくいとされる現代美術への理解を深めていただく目的で開始した「チバ・アート・ナウ」シリーズから、出品作家を県外からも招くことで、より客観的な位置に視点を置いた「カオスモス」に移行して3回目を迎えます。
カオスモスとは、カオス(混沌)とコスモス(秩序)を合体させた造語です。本展は融合し、分裂していく未知数の美術表現の状況を報告すると共にそれらが何処へ向かっているのか、鑑賞者と共に考える企画でありたいと思います。
様々な技術が発達し続けている現代社会においても、人間は肉体的、又は精神的な苦痛から完全に開放されたわけではありません。「心」という言葉を踏まえて最近のニュースを見ているとむしろ、より深刻な状況ではないかと思うことも少なくありません。
悩みや悲しみを客観的に測定することなど出来ないように、合理主義と科学の追求では解決出来ない問題に私たちは直面しているのです。現実から目をそむけるためにインターネットやゲーム等の仮想現実へ没頭する若者が急増しているのも事態の深刻さを窺わせる事例ではないでしょうか。
本展でご紹介するのは、何らかの痛みを起点として表現活動を展開した作家たちの作品です。そこには痛みそのものを直視し続けた独白のような作品や、痛みを乗り越え、透き通るように浄化された風景があります。
ハンセン病と闘いながら、創作を続けた歌人・明石海人の歌集「白猫」の序文に「深海に生きる魚族のやうに、自らが燃えなければ何處にも光はない」とあります。
孤独と向きあいながらも、逃れようのない自らの苦を引き受け、表現へと昇華させた作家たちの結晶とも言うべき作品をこの機会に是非ご鑑賞ください。
尚、今回の出品作家の中には例年と異なり、亡くなっておられる方も含まれています。しかし、広く世に知られることのなかった秀作をご紹介する重要性から、本年のみ例外とさせていただきます。