高橋力雄(1917-1998)は、戦後の国際化の中で、独自の抽象木版画の世界を切り拓いた作家です。高橋は日本画家・高橋虎雄(雅号・虎山)の長男として東京に生まれ、10代の頃から父と写真スタジオの経営に携わっていましたが、戦後恩地孝四郎に師事し、実験的な抽象版画の制作を本格的に始めます。画業の進展とともに、作家の活動は、1960年代からアメリカを中心として繰り広げられ、また日本国内でも個展を重ねてゆき、1970年代には国際的に注目されはじめます。それらの作品では、京都、庭園、四季といった日本の伝統的な情景をモチーフとしながら、刷りを重ねることで深みを増した色彩と、大胆に抽象化した形態によって、木版画の可能性が追求されています。
昨年当館は、長女奥田西杜子氏の手元に残されていた遺品から、高橋が版画制作を始めた1940年代から晩年の1990年までの版画作品約500点の寄贈を受けました。本展では、そのうち作品約60余点を参考資料をまじえて展示し、高橋力雄の清新な抒情の世界を紹介します。