いわゆる東西冷戦終結という体制転換から20年近くが過ぎようとしています。1989年、ドイツというひとつの国を分断していたベルリンの壁が崩壊し、旧東欧諸国と呼ばれた他の国々でも一斉に社会主義体制が崩壊したのです。冷戦は終わりを迎え、資本主義と民主主義という名の新体制が広くヨーロッパを覆ったのです。現在では体制変換した国の多くがEU加盟も果たしました。これらの国の中で、第二次世界大戦後「強制的に」ロシア(当時のソビエト連邦)の影響下におかれ、1989年以降体制を変換したヨーロッパ中央部に位置する国々、とりわけポーランド、ハンガリー、チェコ、スロバキアは、現在では中欧と呼ばれています。
過去の体制下における中欧の陶芸家は制作する主題に制限が設けられていましたが、一方でその身分は保証されていました。しかし新体制は全てを自由にしてしまったため、身分保障もなくなり、格差社会が生まれてしまいました。かの国の陶芸家はこのような状況のなかで、社会に対する強いメッセージを込めた作品を制作する者や、器を基本とした新たな展開の仕事を見せる者など、活動の幅を広げながら自らの立ち位置を見つけようとしています。2005年、そのような激動の時代を生きる中欧のアーティストの作品を紹介するための展覧会が日本でも開催されましたが、そこに展示されていたのは現代美術の作品で陶芸作品は見られませんでした。実際には、チェコでは早い時期に国際現代陶芸シンポジウムが開催され、ハンガリーではジョルナイやヘレンドといった歴史ある陶磁器工房を抱えていたにもかかわらず、これらの国の陶芸作品がまとめて日本で紹介されることはなかったのです。
本展では、中欧と呼ばれる国の中でも当館と滋賀県立陶芸の森が所蔵するハンガリーとチェコの作家による現代陶芸作品、さらに20世紀初頭までそれらの国と一国を成していたオーストリア及びドイツの現代陶芸作品を展示します。これまで私たちにとって遠い国であったハンガリーやチェコの陶芸作品を通して、日本と中欧の共通点や相違点を見いだし、相互に理解を深め、共生する未来を探る契機になれば幸いです。