志野(しの)は、そのやさしい響きのとおおり、乳白色の上薬にうかび上がる緋色が、なんとも美しいやきものです。荒川豊藏が可児市久々利大萱の古窯跡で発見した志野の陶片は、黄瀬戸、志野、瀬戸黒、織部といった茂小山のやきものが美濃の産であることを実証し、当地に一大発掘ブームを巻き起こしました。
彼は勤めていた鎌倉の北大路魯山人の星岡窯を辞して郷里に戻り、大萱に窯を築いて、桃山の美濃焼の再興を志します。そして四半世紀ののち、昭和30年、国の重要無形文化財技術保持者(人間国宝)の第1回認定に選ばれました。
本展では、模範となった古陶磁の名品を併せて展示することによって、荒川志野が出来るまでの過程を追うとともに、黄瀬戸、瀬戸黒、染付、赤絵に加え信楽、萩、丹波、唐津など他窯での仕事や書画、共作までを幅広く網羅します。190点を越える作品と資料によって、豊藏が何を見、何を求めたのか、その足跡を回顧します。