作家、評論家・埴谷雄高(1909~1997)は、「自分とは何か」を追求した作品「死霊」の深化を敗戦直後から87歳で亡くなるまでもとめ続けました。哲学・科学・神学などの境界を自在に飛び越え、自由な思索を積み重ねることによって文学のみに許された無限の精神世界の構築をめざした「死霊」は発表される度ごとに同時代の人々の魂を揺さぶりつづけ、私小説中心の日本近代文学のなかで比類のない魅力を放ち続けています。
当館では生前の埴谷から寄贈された「欧州紀行」などの原稿に加えて、ご遺族から2001年以降、「死霊」の原稿・創作メモ類、埴谷あて書簡など約13,000点を受贈しました。本展は埴谷の没後10年を記念し、これらの資料を基に壮大な思索者・埴谷雄高の足跡を『死霊』を中心に紹介する初の文学展です。
【展覧会の構成】
<序章>1909~1945年(明治42~昭和20)
植民地・台湾での誕生、思春期に耽溺した映画・文学、最初のロシア文学との出会い、治安維持法違反容疑による独房体験、出所後の第二のロシア文学=ドストエフスキーへの耽溺など、文学的資質を育み「死霊」の構想を懐胎した時代を紹介。
<死霊>1946~1997年(昭和21~平成9)
敗戦と同時に「近代文学」に〈第1章〉を発表後、亡くなるまで断続的に書き続けた「死霊」の構想、随所にもりこまれた独特のアフォリズムの創出の過程を、創作メモや草稿類で紹介。・『定本死霊』の刊行。