ともに石を素材とした彫刻群により、内外で高い評価を受ける、井田勝己、荻野弘一による展覧会を開催いたします。
井田は、自然物である石の中から古代遺跡、あるいは神話の中に登場する都市を思わせるような幻想的な風景を取り出してみせるロマンティシズム溢れる作品によって、一見無骨とも思われる石彫の世界に新しい視点をもたらしました。それにより、国内の彫刻コンクールを中心に出展し高い評価を受け、数々の賞を受賞してきました。その精緻な技術と類まれな想像力によって生み出される作品は、近年、ガラスや金属、紙などの異素材を組み合わせることで、石が持つ重さと相反するかのように、より繊細さを持った作風へと変化してきました。井田作品に登場する「船」のイメージもまた、重力に縛られず、むしろ自在に操りながら、悠々と未来へ向かおうとする井田の姿を表しているかのようです。
一方荻野は、自然石そのままの魅力ある姿を見せる、あるいは草花の愛らしさ、動物たちのユーモラスな姿を表現する作品を発表してきました。出身地である新潟に居を構え、農業と創作活動をともに行っています。さらに近年は、秋田県井川町、男鹿市などのまちづくりにも参画し、彫刻を通した豊かな環境づくりのために精力的な活動を行っています。一人の生活者としてしっかりと大地に根を下ろし、自らの生活とともにある芸術の姿を伝えようとする荻野によって、多くの人々が勇気付けられています。
未知の世界へと漕ぎ出す船への憧れと、大自然とともにあり根を下ろそうとする強い意志。本展では、こうした双方の魅力ある作品を通し、太古からの人々の長い歴史に触れ、また、私たち一人ひとりの未来への物語にも思いを馳せてみたいと思います。
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