無人の都市の一場面を遠くから眺めたような景色、それを版画作品の題材にしていた元田は、長崎の軍艦島(端島)に出会う。そこは日常生活の痕跡を濃厚に残す廃墟であり、元田は、その無人の景色に、なぜか喧騒に満ちた東京を重ねあわせたという。
元田が題材に選ぶのは、広く知られた観光名所である。それらは崩れた姿をとっていても、その存在感の質に変化はない。それと分かるためのシンボリックなパーツにはひどい損傷がみとめられないためである。確かに建築物は崩壊している、しかし果たしてこれは廃墟なのだろうか?
作品からはむしろ、全ての人が通り去り、眠りについた夜の都市の静けさと言う趣さえ感じられる。それはまるで都市が毎晩みる夢のようである。不安感に支配された時人々がみる夢のようである。その夢の断片には、ほんの少しの未来と実際にあった過去がまじりあっている。かつてみた景色、どこかで起きている災害、起こるかもしれない今の生活の崩壊。元田が描くのは、過去と現在と未来が混濁した状態にある都市の風景である。
元田は実際の風景を写真に撮り、それをみずからの手によって描画しなおして版画作品として仕上げる。都市風景の断片をトレースすることで、新たな別の表情が与えられている。元田の都市風景には、かすかな不安はあっても悲壮感はない。はっきりと物事を見極められるクリアな視界と、表面が崩れてもなおすっくと立ち続ける強靭さが表れている。あわせて、元田のユーモアあふれる人柄と生来の快活さが、ひそやかな気配として染み込んでいる。阿波紙の選択からは元だのやわらかな雰囲気を感じ取ることができ、その透け感を活かした両面刷りには豊かな遊び心が感じられる。
崩壊した都市風景は、実のところ作家の自画像なのかもしれない。