モーリス・ユトリロ(1883-1955)は、画家スュザンヌ・ヴァラドンを母にパリのモンマルトルに生まれました。孤独な少年時代を過ごし、はやくから飲酒を深めたためにアルコール依存症となり、その治療として絵筆を与えられました。モンマルトルの風景をひたすら描き続けたユトリロは、次第に画家として高く評価されるようになり、晩年には世界的な名声を確立しました。しかし、飲酒が原因で入退院を繰り返し、家族の監視のもとで制作を続けた彼の心からは、深い孤独感が消えることがなかったと伝えられています。
アルコールに苦しみながら、白い漆喰の壁が並ぶひっそりとしたモンマルトルの街を多く描いた「白の時代」(1910年代前半)。鮮やかな色彩を用い、明るさと開放感が表現されるようになった「色彩の時代」(1920年代以降)。軽快なタッチが際立つようになった晩年。風景に自らの内面を重ねて描き出したユトリロの作風の変化は、揺れ動く彼の魂の軌跡をそのまま伝えるものと言ってよいでしょう。
本展では、「白の時代」の作品から「色彩の時代」、さらに51歳で結婚してから最晩年まで、日本初公開の33点を含む78点の絵画に加え、これまで日本で公開されることのなかったユトリロの絵筆やパレット、またパリ名誉市民賞のメダル等の貴重な資料をあわせて紹介します。哀愁と詩情に満ちたユトリロの絵画世界を、この機会に心ゆくまでお楽しみ下さい。