京都を拠点に活動し、1980年代初頭に惜しまれながら逝去した二人の美術家、文承根(ムン・スングン1947-82)と八木正(やぎ・ただし1956-83)が残した作品についての展覧会を開催します。本展は京都国立近代美術館と千葉市美術館の所蔵品のみで構成されるものであり、文承根と八木正の作品を網羅する回顧展ではありません。そしてこの展覧会は、4半世紀前に世を去った二人の俊才について二つの美術館が続けてきた日常業務と作品研究の中間報告を兼ねた、小規模な所蔵作品展という性格を持っています。
文承根と八木正とには、京都を活動拠点としていたこと、1970年代後半から80年代初頭の活動時期が重なること、他の作家との直接的な関係においての制作ではなく、自らの関心と課題とを試行錯誤において独自に発見していった作家であること、こうした共通項を見出すことができます。しかしこの展覧会は、彼らの作品に強引な共時性を、あるいは同時代の動向との直接的な連続性を見出そうとするものではありません。ただ、いまも輝きを失わない彼らの作品を保存し記録し、記憶に残し、その作品を多面的に研究することは、70年代、80年代の日本の現代美術を再考する上で少なくない意味を持つと確信しています。
文承根と八木正の作品の一部は、それぞれのご遺族と関係者の長年の努力により今日まで保存されてきました。京都国立近代美術館は文承根のご遺族からの相談を受け、過去5年間作品の保管と国内の主要美術館への作品情報の提供に協力してきました。千葉市美術館は、残された八木正の作品を積極的に保管し、展示可能な状態を保つため作品修復の努力を続けてきました。この展覧会は、その才能を惜しまれながら世を去った二人の美術家の作品を記録に残し、将来の研究のための原資料として保存してきた二つの美術館の日常的な努力と研究の蓄積を公表するものでもあり、二つの美術館のコレクションを集合させた、きわめて小規模でささやかな展覧会なのです。