「絹の道」は中国から延々と中央アジアを貫いてヨーロッパへと通じていた陸の路が有名ですが、一方では、中国南部からベトナム・マレー半島・ビルマ・インドという海の路もすでに前漢時代(B.C.2~1世紀)から開かれていたようです。こうした海路は、造船・航海技術の発達により、陸路よりも安全で重量物を容易に運搬できるようになり、9世紀を過ぎると海上のルートが交易に重要な位置を占めるようになります。このルートにより、中国の陶磁器は東南アジア各地はもちろんのこと、ペルシャ湾岸やエジプトいたる実に広い地域に運ばれました。
近年の考古学的調査の進展により、フィリピン・インドネシア・マレーシアなど、かつての交易船の寄港地における貿易品としての中国陶磁器受容の実態が徐々に明らかとなりつつあります。また、我が国でも、各地の遺跡から多くの貿易陶磁の発見が報告されています。
今回の展覧会で紹介する資料は、1970年代にフィリピンで収集されたとされるものです。唐時代末期から、清時代初期にいたる中国陶磁を中心に、ベトナム・カンボジア・タイという東南アジア各地の陶磁をも含む幅広い時代と地域にわたるコレクションです。なかでも、宋~元時代の福建省・広東省など中国南部諸窯の貿易陶磁が多く収集されていることがその特色です。