近代陶芸の巨匠、富本憲吉の生誕120年を記念し、その業績を回顧する展覧会を開催いたします。
富本憲吉は、1886(明治19)年、奈良県安堵村に生まれます。1904年、東京美術学校図案科に入学し、卒業前にイギリスに留学、その帰りにはイスラム建築調査の助手として、フランス、インドにも同行し、西洋美術に加えて各国の装飾美術に触れました。帰国後は木版画をはじめ、染織や刺繍、木工など様々な工芸品の制作を試みています。その後、バーナード・リーチとの出会いを契機として陶芸の道に進みますが、そこでも古陶磁や各地の窯場に伝わる技術を研究することで、従来のやきものの伝統を越えた自己の表現を確立していきます。富本が時代を画する陶芸家となった一つの要因は、こうした様々な出会いを土壌に、独自の表現を萌芽させたことにあったと言えるでしょう。
富本の作陶は、白磁や染付の大和時代、色絵磁器の東京時代、色絵金銀彩の京都時代と大きく三つの時代に分けることができます。そして各時代において珠玉の名品を生み、1955年には第1回重要無形文化財保持者(色絵磁器)として認定され、1961年には文化勲章を授与されました。1963年に他界するまでの約50年にわたる制作の過程は、「模様より模様を造るべからず」という強い信念のもと、独自の模様や形を追求し、用と美の結合という工芸の在り方を求めて格闘した遍歴の軌跡でもあったのです。
本展覧会では、各時代の代表作のみならず、英国留学中のスケッチ、交流関係を示す絵手紙といった多彩な資料や未公開作品を含む約250件によって、多岐にわたる富本の活動を解析し、その全容に迫ります。