近代陶芸の巨匠のひとりとして、日本の陶芸史に深くその名を刻みつつも、およそ四半世紀にわたって、まとまった紹介がなされてこなかった岡部嶺男(1919~1990)の作陶活動を回顧します。
岡部は陶磁器の産地として知られる愛知県瀬戸に、陶芸家・加藤唐九郎の長男として生まれ、子供のころから陶磁器に親しみました。1940年に21歳で入営し、復員後、本格的に作陶活動を再開すると、織部・志野・黄瀬戸・灰釉・鉄釉などの地元の伝統技法をもとに作域を広げていきます。なかでも器体の全面に、自らの情熱を叩きつけたかのように縄文を施した織部や志野の作品は、極めて独自性が強く、そのエネルギー溢れる作品は高い評価を得ます。その後、意欲的な作陶姿勢は青瓷の研究へと向けられ、厳しく凛とした器形に、しっとりとした艶のある不透明な釉調の<粉青瓷>、透明感ある釉調と青緑の釉色が美しい<翠青瓷>、そして、誰もが為し得なかった黄褐色の<窯変米色青瓷>など、「嶺男青瓷」と呼ばれる独自の釉調や釉色の青瓷釉をまとう作品を生み出していきます。相対するかのような格調高い青瓷の静謐な世界をつくりあげながらも、そこには縄文の作品に通じるエネルギーが内包されています。
本展覧会は、情熱に満ち、独自性に富んだ岡部の作陶活動の初期から晩年までの作品約170点を一堂に展観します。古典の単なる模倣を超えて、自らの美意識を作品に写し出すことに生涯をかけた岡部嶺男の軌跡を今、あらためてたどります。