平山郁夫は《仏教伝来》など、仏教に関する伝説や逸話に基づく、文学的で抒情性豊かな作品で大きな注目を浴びました。その後、玄奘三蔵の求法の道を追体験するとともに、シルクロードを旅し、そこで目にした光景を題材にして、風景としての歴史画ともいうべき独特の世界を築き上げました。それは奈良・薬師寺の玄奘三蔵院の大壁画となって大きな実を結ぶことになります。一方でシルクロードの東端に花開いた日本の伝統的な文化にも大きな関心を寄せ、近年、新しい画境を切り拓いています。
平山郁夫のこうした旺盛な制作活動の根底には、被爆者としての原体験を通じた、生きることへの深い問いかけ、そこからくる平和への切実な祈りがあることを見逃すことはできません。死の影におびえつつ、残された時間を生き切るには絵を描くことしかなかったという平山郁夫にとって、人生の原点としての被爆体験はその芸術活動と分かちがたく結びついていたといえます。そのことは、平生、ほとんど表には現れませんが、《広島生変図》、《平和の祈り―サラエボ戦跡》など、過去の傷口が否応なく露わになる時、この画家の芸術の奥底に流れる生への強い思いと、半世紀以上にわたる制作活動において表現しようとしたものに、私たちは改めて気付かされるのです。
この展覧会は77歳の喜寿を記念して企画されたもので、代表作約80点が出品されます。全体を「仏陀への憧憬」、「玄奘三蔵の道と仏教東漸」、「シルクロード」、「平和への祈り」の4章で構成し、平山郁夫の芸術の軌跡を辿ります。