服部和彦氏は静岡県在住の実業家で、30歳代半ばより古美術の世界に強く惹かれ、収集を行うようになりました。氏の古美術収集に大きな転機が訪れたのは、元奈良国立博物館館長の石田茂作氏との出会いでした。それ以後服部氏の収集は体系的に行われるようになり、中でも最も強く惹かれていた密教工芸〔みっきょうこうげい〕の分野では壇具〔だんぐ〕の主要な法具を網羅するまでに成長し、川端康成旧蔵の金銅三鈷杵〔こんどうさんこしょ〕のような著名な作品を所蔵するまでになりました。
このたび、奈良国立博物館は服部氏より仏教工芸を中心に60余件のコレクションの寄贈を受けました。その中には前述の金銅三鈷杵のほか、かつて五種鈴〔ごしゅれい〕を構成していた金銅独鈷鈴〔こんどうとっこれい〕・三鈷鈴・宝珠鈴〔ほうじゅれい〕、高麗時代の銅五大明王五鈷鈴〔どうごだいみょうおうごこれい〕といった貴重な作品も含まれています。
また、金銅金剛盤〔こんどうこんごうばん〕や白銅五鈷鈴のように銘文を有する作品もあり、資料的にも価値の高い品が少なくありません。密教法具以外にも鏡像〔きょうぞう〕、懸仏〔かけぼとけ〕、舎利容器〔しゃりようき〕、瓦経〔がきょう〕、仏像なども見ることができ、服部氏が広い視野で仏教美術を見つめていたことが伝わってきます。
「古玩逍遥」展は寄贈品の中から仏教工芸40件、彫刻3点、考古品6件を展示するものです。服部和彦氏が逍遥された仏教工芸の世界をたどりながら、鑑賞の楽しみを発見していただければ幸いです。