我が国における書の国風化は、小野道風や藤原行成などの登場により「和様」の書の成立によって展開します。この「能書」たちは、ほかならぬ貴族社会の構成員であり、実際には朝廷に仕えた行政の実務者でした。その社会の頂点が天皇です。貴族社会の権威として天皇は文化の担い手でもあり、歴代天皇からは嵯峨、伏見、後陽成などの傑出した「能書」が登場します。諸家と同様、伝来の書風を継承しつつ自らの個性を加えるなど、書流の回顧と復帰そして展開が繰り返されました。この特集陳列では、館蔵品のうち、奈良から江戸時代にかけての歴史の中でも能書の聞こえ高い天皇の作品を選択し、書流の継承と展開を跡づけてみるものです。それぞれの天皇が置かれていた状況や、政治的な立場を我々に示してくれる作品もあります。どうぞその思いを展示室で読み取ってください。