人は今いる場所から遠く離れた地に憧れ、その風土に思いを馳せます。特に芸術家は未知の世界に触れ、感覚を研ぎすませ、想像力を膨らませるために、異国のものを収集したり、そのライフスタイルを取り入れたりします。また、実際に現地へおもむいて制作する場合も少なくありません。そうして生まれる作品は、現実・想像の垣根をこえて縦横無尽に旅する作家のまなざしが、新しく編み出した固有の世界像(ヴィジョン)とも呼べるでしょう。
本展では、当館コレクションの中から、積極的に外へと眼を向けた芦屋ゆかり作家たちに注目し、彼らの旅するまなざしが実現して見せた、それぞれのヴィジョンを紹介します。取り上げる主な作家は、1920年代にパリに渡って数年間滞在し、サロン・ドートンヌに出品した大橋了介(1895~1943年)や上山二郎(1895~1945年)、西洋の前衛美術運動に造詣の深い美術評論家の夫・仲田定之助との生活で、西洋のモダンな感覚を身につけた仲田好江(1902~1995年)、1920年代に東南アジア各地を巡り、1930年に「芦屋カメラクラブ」を結成して新興写真運動の一翼を担ったハナヤ勘兵衛(1903~1991年)、パリ帰りの上山二郎から影響を受けた後、戦前は二科会で抽象絵画の旗手として、戦後は具体美術協会のリーダーとして活躍した吉原治良(1905~1972年)、1952年に渡仏してまもなく独自性を認められ、終生パリを拠点に活動した菅井汲(1919~1996年)です。特に吉原については、彼が1930年代初頭に収集した希少なロシア絵本もあわせて展示します。本展で、作家のまなざしが生んだ想像の世界を共に旅し、芦屋ならではのコレクション遊覧をお楽しみください。