師の鏑木清方、京都の上村松園とともに近代を代表する美人画家と称される伊東深水(1898-1972)は、美人画家だけにとどまらない他の側面もあわせ持っていました。そのことは、深水が残した膨大な量の素描から窺うことができます。それらの素描は、人物、風俗、風景、花鳥など広範囲にわたり、そこには完成画からは窺い知ることができない画家伊東深水の真の姿を見ることができます。 「天性の素描家」ともいわれる伊東深水が日課のように行っていたこれらの素描群は、深水芸術の成立を探る重要な資料であると同時に、精緻な観察眼と生き生きとした筆使いを示して絵画作品としても大きな魅力を持っています。深水の素描作品は、現在では各地の美術館や個人コレクターが分蔵しています。今回の展覧会は、名古屋市郊外の名都美術館の協力により、同館所蔵の素描を完成画もまじえてご紹介します。完成画からは窺い知ることができない画家伊東深水の素顔と生気あふれる素描の魅力をどうぞお楽しみください。