誰もが一度は描いた経験のある水彩画――水に溶かすだけですぐに描ける簡便な水彩絵具は、イギリスの産業革命の時代に製品化され、日本では明治時代後半期に爆発的なブームを巻き起こしました。その大きなきっかけとなったのは、1901(明治34)年に画家大下藤次郎が出版した『水彩画の栞(しおり)』という初心者向け冊子です。この頃になって、水彩画は、西洋の香り漂うおしゃれな絵具として一般に広まっただけでなく、油絵や日本画を描く準備段階的な地位から、展覧会に出品するに値するものへと認知されるに至りました。
三重県立美術館では、作家の創作活動の背景を知ることのできる水彩画や素描などを機会あるごとに蒐集してまいりました。今回の展覧会では、三重県立美術館のコレクションより、油絵や彫刻を生み出すための習作的水彩素描から、完成作(タブロー)としての水彩素描までを17年ぶりに、約220点にのぼる作品によって展観します。この機会に、作家の息吹を間近に感じる水彩素描の魅力をどうぞご堪能ください。