本展覧会は料治熊太の版画作品と、料治が編集発行した版画誌に木版画を発表した棟方志功や谷中安規ら、戦前の日本を代表する版画家たちの作品を展示する展覧会です。
料治熊太(りょうじ・くまた、岡山県出身、号・朝鳴、1899-1982)は、1930年(昭和5年)に東京で『白と黒』を創刊、そのあと『版芸術』や『郷土玩具集』、『おもちゃ絵集』など5種類の版画誌を発行した編集者でした。また自らも、生活に密着した素朴な風合いの木版画を制作した版画家でもありました。こうした料治の周りには、棟方や谷中などきわめて個性的な版画家が集まり、豊かな文化サロンが形成されました。
料治はまた、出版社で編集者として仕事をしていた時期に、野尻抱影(のじり・ほうえい)や会津八一(あいづ・やいち)らから古美術の薫陶をうけています。それ以後、民芸の蒐集を開始し、そうした趣味を自分が発行する版画誌のタイトルや内容に色濃く反映させていきました。『郷土玩具集』『土俗玩具集』などはその具体的な現れといえます。1930年代には、柳田国男らの民俗学が普及し、柳宗悦(やなぎ・むねよし)らの民芸運動が盛んになりましたが、料治の民芸趣味などもそうした文化的流行に応じて生れたものだったといえるでしょう。
本展では、このような料治の活動と趣味を、料治とその仲間たちの版画を中心に紹介します。棟方や谷中の活躍とその背景が浮き上がり、さらに当時の文化的流行が理解できることと思います。また昭和初期の木版画の素朴な味わいを堪能していただけることでしょう。ぜひご高覧下さい。