ヘンリー ダーガー[1892-1973]は、両親との早すぎる死別、知的障害という診断と施設への収容などを経て、青年期から81歳で亡くなるまでの間、完全な孤独の中で、膨大な量の物語と絵画を制作しました。人目に触れることもなく描きためられた作品群は、家主であり、自身も芸術家としてシカゴにおけるニュー バウハウスの中心的存在の一人であったネイサン ラーナーに託され、その慧眼により、没後の損失を免れることになります。専門家による調査研究の機会を得て、現在、ダーガーの作品はアウトサイダー アートの専門館に収蔵されると同時に、展覧会が世界の主要な美術館へ巡回されるなど、近年ますます関心の高まるところとなっています。
本展は、ラーナー コレクションの中から、大作「The Battle of Calverhine」や自作の物語を描いた絵画15点、および想像上の王国の旗や架空の生き物を描いた小品約30点を選んで構成するもので、その多くが日本初公開となります。さらに、生前の孤独な暮らしぶりを伝える部屋を写真で紹介、また、生前には家主として精神的に支え、没後にはその才能を世に知らしめることに尽力したネイサン ラーナーの制作の一端も交え、孤高の表現者ダーガーの生きた軌跡を辿り、その内面に迫ります。ダーガーの作品は、戦争、平和、差別や命の尊さといった、まさに日本の現代社会が抱えるさまざまな問題を内包しています。本展は、その知られざる表現世界の紹介を通して、生きることの意味や芸術の役割について、改めて考える機会としたいと考えます。