今回の「シュルレアリスムの世界展」では、特別展で開催される「ダリ展」にあわせて、名古屋市美術館のコレクションの中からシュルレアリスムの影響を強く感じさせる作品を、絵画と写真の二部構成で特集してご紹介します。アンドレ・ブルトンがパリでシュルレアリスム宣言を発表するのは1924年のことですが、その影響が日本に及んでくるのは1930年前後からです。しかし、それから数年の後には前衛画壇の多くにそれは波及し、とりわけダリの模倣と思われるような作品の氾濫により、「猫も杓子もダリ的な作品を描き出している。(中略)洪水のような市井展の中にこの傾向の作品が掃き捨てきれない位にある」と揶揄されるほどの勢力を占めるまでになりました。確かにダリをはじめエルンスト、タンギー、ミロといったヨーロッパのシュルレアリストの作品が日本の作家たちに与えた影響の強さは、今回の展示作品をご覧になるだけでも十分にご理解いただけるでしょう。
しかし、一方で日本のシュルレアリストたちは、ダリやエルンストが強い関心を抱いた、人間の心の奥底に潜む様々な欲望や恐怖といった、最も根元的なテーマに正面から取り組むことをせず、形式的な模倣に終始したのではないかという批判にも度々さらされました。このような批判は、実はシュルレアリスムに限ったことではなく、フォーヴィスムやキュビスムなど、ヨーロッパの前衛美術を常に受容しながら発展してきた日本の近代美術全般に対してしばしば言われることなのですが、それに対して彼らの表現は、1930年代後半という次第に閉塞感を強める時代状況の中で、そこからの脱却への思いが強く込められているのではないか、という解釈も最近は行われています。芸術家やその作品が、時代と社会から隔絶して存在することが難しい以上、このような解釈が生まれるのもまた当然と言えるでしょう。
今回の展示では三岸好太郎や北脇昇といった、日本のシュルレアリスムの最良の成果を示す作家を中心に、メキシコの女流作家で、日常の何気ない光景の中に存在の神秘を漂わせたマリア・イスキエルドの作品を加えて、豊かなシュルレアリスムの世界をご紹介します。
開催期間
前期[絵画]4/7(土)~6/3(日)
後期[写真]6/5(火)~7/11(水)